企業間データ連携で実現する新たなマーケティング戦略

デジタルマーケティング

2026.01.30

企業間データ連携で実現する新たなマーケティング戦略

デジタルマーケティングの世界は今、かつてないほどの大きな転換期を迎えています。長年にわたりインターネット広告の基盤を支えてきたサードパーティCookieの廃止や、世界的に強まるプライバシー保護規制の流れは、これまでの常識を根本から覆そうとしているのです。

多くの企業が、従来の計測手法が通用しなくなる現実に直面し、代替策の模索に追われています。しかし、この変化を単なる「規制への対応」という守りの姿勢だけで捉えてしまうのは、あまりにも惜しいことだと言えるでしょう。

なぜなら、この制約こそが、企業間データ連携という新たなマーケティング戦略の扉を開くきっかけとなっているからです。

これからの時代、自社で保有するファーストパーティデータだけでは、顧客理解を深めるのに限界が訪れることは明白です。そこで注目されているのが、異なる企業同士が互いのデータを安全な環境で掛け合わせ、より解像度の高い顧客像を描き出すアプローチです。

この記事では、プライバシー保護を前提とした企業間データ連携が、どのようにして次世代のデータ活用とマーケティング戦略の中核を担うのか、そのメカニズムと実践的なステップについて詳しく解説していきます。

Cookieレス時代の到来とマーケティングの再設計

デジタルマーケティングを取り巻く環境変化の中で、最も影響が大きいのが「Cookieレス」と呼ばれる潮流です。

個人のプライバシーを尊重する動きが加速する現代において、企業は従来のターゲティング手法や効果測定のあり方を根本から見直し、新たな信頼関係に基づいたマーケティングの再設計を迫られています。

なぜサードパーティCookieが廃止されるのか

インターネット黎明期から広告配信の最適化に利用されてきたサードパーティCookieが、なぜ今になって廃止へと向かっているのかを正しく理解する必要があります。

その最大の理由は、インターネットユーザーのプライバシー保護に対する意識の高まりと、それに応える形での法規制の強化にあります。詳しくは以下の記事を参照ください。

従来型ターゲティングと計測手法の限界

サードパーティCookieの利用制限は、これまでのマーケティング実務において当たり前だった手法に深刻な問題をもたらしています。

例えば、一度自社サイトを訪れたユーザーに対して広告を配信するリターゲティング広告は、その精度が著しく低下しています。ユーザーがサイトを離脱した後の行動を追跡できなくなるため、適切なタイミングで再アプローチをかけることが難しくなっているのです。

また、広告のコンバージョン計測においても大きな課題が生じています。ユーザーが広告をクリックしてから購買に至るまでの経路が分断されることで、どの広告媒体が実際の成果に寄与したのかを正確に把握することが困難になってきました。

このような状況下では、広告予算の配分が最適化できず、CPA(顧客獲得単価)の高騰を招くリスクが高まります。

さらに、新規顧客の獲得においても、これまではサードパーティデータを活用して自社顧客と類似したユーザーを探し出す手法が有効でしたが、その精度も低下せざるを得ません。

これらの事実は、外部データに依存しすぎた従来のマーケティングモデルが限界を迎えていることを示唆しています。

だからこそ、企業は自社で保有するファーストパーティデータの質と量を高めるだけでなく、不足する情報を補うための新たな手段として、信頼できるパートナー企業とのデータ連携に目を向ける必要性が高まっているといえるでしょう。

企業間データ連携によるマーケティングの新たな可能性

従来の追跡手法ができなくなる一方で、企業間データ連携はマーケティングに大きな可能性をもたらしています。

異なる業種や業態の企業が手を組み、互いのデータを掛け合わせることで、自社単独では決して見えなかった顧客の真の姿を浮き彫りにし、競争優位性を築くことが可能になります。

異業種データの組み合わせが生む新しい顧客像

企業間データ連携の最大の魅力は、自社のビジネス領域外にある顧客の行動や嗜好性を把握できる点にあります。

通常、企業が保有する顧客データは、自社の商品購入履歴やサイト内の行動ログなど、特定の接点における情報に限られています。

しかし、顧客の生活は自社サービスの中だけで完結しているわけではありません。例えば、ある旅行予約サイトが保有する「旅行への関心が高い」というデータと、小売店が持つ「キャンプ用品の購入履歴」というデータを掛け合わせたとします。

そうすると、単に「旅行好き」というだけでなく、「アウトドア志向で、直近でキャンプを計画している可能性が高い層」という、極めて具体的な顧客像が浮かび上がってきます。

また、クレジットカード会社の決済データとメディアの閲覧データを連携させる事例も考えられます。

高級家電に関心を持って記事を読んでいるユーザー層に対し、実際に高額消費を行う傾向があるかどうかを検証することで、より精度の高いターゲティングが可能になるのです。

このように、異なる文脈のデータを組み合わせることで、顧客のライフスタイルや価値観を立体的かつ多角的に理解できるようになります。

これは、属性データや推測に基づく行動履歴だけを頼りにしていた従来の手法とは一線を画す、リアリティのある「個」の理解であり、これこそが次世代のマーケティング戦略において強力な差別化要因となるはずです。

自社単独では得られないインサイトの発見

自社データのみに閉じた分析を行っていると、どうしても視野が狭くなり、新たなビジネスチャンスを見逃してしまうリスクがあります。

企業間データ連携は、こうした自社の盲点を補い、予期せぬインサイト(洞察)を発見するきっかけを与えてくれます。

例えば、自社サービスの解約率が高い顧客層が、実は他社の特定のサービスを頻繁に利用しているという相関関係が見つかれば、解約防止のための具体的な施策を打つヒントが得られるかもしれません。

あるいは、自社のロイヤルカスタマーが、全く異なるジャンルの趣味嗜好を持っていることが判明すれば、異業種とのコラボレーション企画や新商品開発のアイデアにつながる可能性も広がります。

さらに、スタートアップやベンチャー企業にとっては、大手プラットフォーマーやデータプロバイダーと連携することで、自社だけではリーチできない広範なオーディエンスデータにアクセスできるという利点もあります。

自社の顧客基盤がまだ小さい段階であっても、外部データを活用して潜在顧客のペルソナを詳細に分析し、効率的なマーケティング施策を展開することが可能になるのです。

重要なのは、データを単に集めることではなく、連携によって「何を知りたいのか」「どのような仮説を検証したいのか」という問いを持つことです。

その問いに対する答えを外部データとの化学反応によって導き出すプロセスこそが、データ活用の真髄であり、企業の成長を加速させるエンジンとなります。

データ連携を可能にするテクノロジーと安全性の確保

企業間でのデータ連携が魅力的であるとはいえ、そこには常にプライバシー保護とセキュリティの課題がつきまといます。しかし、近年のテクノロジーの進化は、個人情報を秘匿したまま高度な分析を行うことを可能にし、安全かつ安心なデータ活用環境を実現しつつあります。

データクリーンルームの役割と技術的仕組み

企業間データ連携を実現する上で、現在最も注目を集めているソリューションが「データクリーンルーム」です。これは、プラットフォーマーやデータ保有企業が提供する、プライバシーが保護された安全なクラウド上の分析環境のことを指します。

データクリーンルームの最大の特徴は、互いの生データを直接相手に開示することなく、暗号化や統計化された状態で分析・照合ができる点にあります。

具体的には、A社とB社がそれぞれの顧客データをデータクリーンルームにアップロードし、共通のID(ハッシュ化されたメールアドレスなど)をキーにしてマッチングを行いますが、その過程で個人の特定につながる情報は厳重に遮断されます。

出力される結果も、「30代男性の購買率が20%向上した」といった統計データや分析レポートの形をとるため、個人のプライバシーを侵害するリスクを極限まで低減できるのです。

この仕組みにより、企業は個人情報保護法などの規制を遵守しながら、精度の高い顧客分析や広告効果の検証を行うことが可能になります。

GoogleのAds Data HubやAmazon Marketing Cloudなどが代表的ですが、近年では国内のデータベンダーやSIerも独自のデータクリーンルームソリューションを提供し始めています。

この技術は、データ活用とプライバシー保護という、一見相反する要素を両立させるための架け橋として、今後のマーケティング戦略において不可欠なインフラとなっていくことは間違いありません。

プライバシーを守りながら分析するためのルールと設計

テクノロジーがいかに進化しても、それを運用するためのルールや設計が疎かであれば、真の安全性は確保できません。

企業間データ連携を進めるにあたっては、技術的な導入と並行して、法務面および倫理面での厳格なガバナンス体制を構築することが求められます。

まず大前提として、自社の顧客からデータを取得する際に、そのデータが第三者との分析や連携に利用される可能性があることを明示し、適切な同意(オプトイン)を得ておく必要があります。

プライバシーポリシーの改定や、Cookieバナーによる同意管理プラットフォーム(CMP)の導入など、透明性の高いコミュニケーション設計が欠かせません。

さらに、連携するパートナー企業との間でも、データの取り扱いに関する契約を緻密に結ぶことが重要です。

データの利用目的、保持期間、アクセス権限の範囲などを明確に定め、目的外の利用を未然に防ぐ仕組みを作らなければなりません。

また、分析の過程においても、「差分プライバシー」のような、ノイズを加えて個人を特定できなくする数学的な手法を取り入れるなど、プライバシー保護技術(PETs)の活用も検討すべきです。

企業としてユーザーの権利を守り抜く姿勢を示すことこそが、ブランドへの信頼を高め、持続可能なデータ活用を実現するための土台となります。安全性を担保するためのコストや手間は、将来的なリスクを回避するための投資であると捉えるべきでしょう。

企業間連携型マーケティングの実践ステップ

概念や技術を理解した後は、実際にどのようにプロジェクトを進めていくかが重要になります。特にリソースの限られたスタートアップ企業においては、無駄のない戦略的なアプローチで企業間データ連携を推進していくことが成功への近道となります。

連携相手の選定とデータ連携目的の明確化

データ連携プロジェクトを成功させるための最初の、そして最も重要なステップは、適切なパートナー企業の選定と、連携目的の明確化です。

「とりあえずデータをつなげば何か分かるだろう」という漠然とした期待でスタートすると、多くの場合プロジェクトは迷走します。

まずは自社のマーケティング課題を深く掘り下げ、「新規顧客の獲得効率を上げたいのか」「既存顧客のLTV(顧客生涯価値)を高めたいのか」、あるいは「全く新しい商品開発のヒントが欲しいのか」といった具体的なゴールを設定する必要があります。

その上で、そのゴールを達成するために不足しているデータは何で、それを持っている企業はどこかをリストアップしていきます。

パートナー選定においては、単にデータの量が多い企業を選ぶのではなく、自社の顧客層と親和性が高いか、あるいは相互補完の関係になれるかを見極めることが大切です。

例えば、富裕層向けのサービスを展開しているなら、高級車のディーラーや百貨店との連携がシナジーを生むかもしれません。

また、相手企業にとってもメリットがある「Win-Win」の関係を構築できるかどうかも重要な視点です。

データ連携は一方的な情報の搾取ではなく、相互のビジネスを成長させるための協業であるという認識を持ち、丁寧な対話を重ねながら信頼関係を築いていくプロセスが求められます。

小さな実証から始めるスモールスタートの重要性

壮大な構想を描くことは大切ですが、最初から大規模なシステム統合や全社的な連携を目指すと、調整に時間がかかりすぎたり、投資対効果が見えにくくなったりするリスクがあります。

特に変化の激しい市場環境においては、スピード感が命です。そのため、まずは限定的な範囲で「PoC(概念実証)」を行い、スモールスタートで成果を確認しながら段階的に拡大していくアプローチを推奨します。

例えば、特定のキャンペーン期間に限ってデータクリーンルームを活用し、広告配信の精度がどれくらい向上するかをテストしてみるのも一つの方法です。

あるいは、一部の顧客セグメントに絞ってデータを分析し、得られたインサイトをメールマーケティングに応用してみるといった小さな実験から始めることも可能です。

このように小さな成功体験を積み重ねることで、社内の理解や協力を得やすくなり、予算の確保もスムーズに進むようになります。

また、小規模なテストであれば、万が一想定通りの成果が出なかった場合でも、軌道修正や撤退の判断を迅速に行うことができます。

データ連携プロジェクトは、一度システムを構築して終わりではなく、分析と改善を繰り返しながら精度を高めていく継続的な取り組みです。

だからこそ、失敗を恐れずにまずは小さく試し、そこから得られた学びを次の施策に活かすというアジャイルな思考を持つことが、変化に強いマーケティング組織を作るための鍵となるのです。

まとめ

企業間のデータ活用は、従来のマーケティングの常識を覆す大きな変化をもたらしつつあります。Cookie規制や個人情報保護の強化という外的環境をきっかけに、安全かつ戦略的に連携し、これまでにない顧客理解と競争優位を得る道が開かれています。

本稿で解説してきたように、サードパーティCookieに依存した集客モデルからの脱却は、もはや避けては通れない道です。しかし、それはマーケティングの終焉ではなく、質を重視した本質的な戦略へと進化するための好機でもあります。

データクリーンルームなどのテクノロジーを活用し、信頼できるパートナーとデータを掛け合わせることで、自社単独では到達できなかった深いインサイトや、精度の高いターゲティングが可能になります。

特にスタートアップやベンチャー企業の経営層にとっては、限られたリソースの中で最大限の成果を生み出すための、極めて有効な手段となるはずです。

重要なのは、法規制への対応をコストと捉えるのではなく、顧客との信頼関係を再構築するための投資と捉えるマインドセットの転換です。

プライバシー保護とデータ活用を両立させる「企業間データ連携」という新たな武器を手にし、攻めの姿勢でマーケティング戦略を再設計できるかどうかが、これからの市場での勝敗を分ける分水嶺となるでしょう。

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